消えないもの

 前置き。
 作者は12月初旬に、右目について、斜視の手術を受けました。
 内容としては、目を動かす筋肉6つのうち(作者の場合)2つを切断して、位置を後ろにズラして縫い付ける(前にズラす場合もあるとか。後ろに縫い付ける場合は、その筋肉の力を弱めるらしい。前は強める)、という感じのです。白内障とかの手術は全然そうでないのですが(祖父の様子と看護師さんの話より)、筋肉を弄る手術は大分まあ充血とか痛みとか、後に色々あるわけです、ありました。
 という感じでしたが、経験として滅茶苦茶美味しいので、カインか因縁で何か書いておくべきでは? vs手術後は(上記のこと、詳細は本文みたいな感じで)あんまり画面を見たくないので書く気力がない、という感じでした。
 それも今は大分落ち着いてきたけど、早く書かないと忘れる、でも良い感じのネタ思いつかない、ということで、作者の術後記録7割、まほやく要素3割な文をとりあえずで作りました。
 カイン周りの情報を全然見直していないので、齟齬あるかもしれないです。すみません。
 あ、術後経過としては良好とのことです。自身としても変わり具合に嬉しくなっています。普通の人と比べればまだズレが残る感じではありますが、大分変わった印象です。多分コス垢でコス写真載せる頃に、比較でも載せるんじゃないですかね?

 というわけで、楽しめるのか分からない文章ですが良ければ。

 * * * * *

 
 目が覚めて数時間の記憶は、本当に朧気だ。
 
 何か声を掛けられた気がする。
 場所を移動した気もする。
 だが、全てが飛び飛びの様な感覚がある。
 そもそも、あの出来事からどれくらい経っているのかも曖昧だ。
 目が覚めてすぐはその様な状態であったが、その後も酷かった。
 近くにある、何かの書かれたメモ用紙を取ろうとして、身体を起こす。起こそうとして、顔の向きを変える。
 途端、酷い激痛が自身を襲った。
 左目。
 誰が付けてくれたのかは分からないが、眼帯で覆われた、その下。
 耐えられず、少し起こした身体を再び寝台に投げ打つ。どうにか紙を近くに引き寄せはしたものの、正直読む気力は全くと言って良いほどなかった。
 他の魔法使いならば、もしかしたら痛みを緩和するための治癒をしたり、痛覚を遮断したりと言ったことが出来たのかもしれない。
 だが、俺にそんな技量はなかった。
 魔法使いであることを隠して生きてきた。付け焼き刃の魔法しか使えない。
 故に今、この様な状態なのだと、この痛みが示している。
 人間と同じ様に痛み止めに頼りながら、それでも引かない痛みを、ただただ、同時に残る微睡みに委ねることしか出来なかった。

 数時間して。
 身体を起こせばやはり痛みが襲うものの、騎士団としてこれまでやってきた自身が、それに耐えきれぬほど弱いとは思いたくなかった。
 痛みでぼんやりとした思考の中でありながら、改めてメモ用紙を見やる。
 その内容で、意識は完全に覚醒した。
「は……はは…………」
 驚愕は、乾いた嗤いに移り変わる。
 俺は、騎士団長ではなくなっていた。
 誰もいない部屋で、紙一枚で突きつけられた事実に溺れていた。

 
 その日一日は、いつまでも痛みに悩まされ、殆どを横になって過ごした。
 翌日。
 まだ鈍く残る痛みを、痛みによって嫌でも意識を向けさせる左目を、初めて見た。
 重い身体を動かして向かい合った鏡に映るのは、眼帯を外した自身の姿。
 左目は、真っ赤だった。
 今までにないくらいに充血し、濁っていた。
 そんな白目に囲まれた、己の瞳。
 己の物ではない、己の瞳。
 赤いその瞳と、鏡を挟んで、この場で初めて目が合った。
 映るのは、自分の顔である筈なのに。
 彼奴の顔が、そこにある気がした。

 
 約一週間後。
 あの時ほどの痛みはないものの、左目の違和感は消えないままだった。そもそも言うことを聞かないし、見えづらい。
 ずっと小さく鈍く痛み、存在を強調してくる。
 もう一つ、変化があった。
 左目が、閉じづらい。
 知らぬ間に何処かへ、飛び出して行ってしまうのではないかと思う程だ。
 こんな忌々しい目、飛び出して行ってしまうのと残っているのと、どちらが良いのかは、あまり考えたくなかったが。
 瞬きが上手く出来ず、渇きを感じる度に意識してどうにか閉じようとする。その度に、痛みを伴った。
 正直見たくなかったが、変化の理由を知りたくて、鏡でまじまじと目を観察した。
 目が、腫れていた。
 少しだけ充血の引いた白目の部分が、ぶくぶくと、水を含んだかの様に、眼球そのものが腫れていた。
 赤い瞳に少しだけ、腫れたそれがかぶさっている。見えづらさはこれも理由なのかもしれないと、何処か他人事の様に思考する自分がいた。
 他人事にしていない自分の思考はと言えば、気持ち悪さに顔を鏡から離した。
 閉じづらいのを無理やり閉じて。
 深く溜め息を吐いた。

 二、三週間もすれば、痛みは殆ど消え、腫れも殆ど消えていた。
 まだ少し残る充血と、無理矢理視線だけを視界の隅に向けようとした時に、筋肉が無理をしている様な、ひっつれた感覚。そういったものはまだ認識をするものの、生活への支障は殆ど消えていた。今後、そういったものも元に戻るのかもしれない。
 それでも、真ん中の赤は消えない。
 それだけは、その存在を、あの出来事を、否応にも示し続ける。

 伸びた前髪でそれを隠しながら。
 いつか取り返す。その意思だけは、消さないことを決めた。

〈蛇足〉
・作者の眠気は全身麻酔故
・作者を覚醒に至らせたのはまほステ祝祭のビジュ
・作者は目の腫れが引いていない時に車の移動をした結果、右をちょっとした低い障害物で擦ってタイヤをバーストさせました。見えていなかったんでしょうね。公道じゃなくて良かった。


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