ミステリと数学が趣味の人間故です。開催2日前に思いついたので、勢いでしかないです。細かいことはスルーしてください。
リスゲオムニバスの内容を含みます。
ガロアの運命
『ほう。ガロア理論は代数学だけでなく数学全てに通じる理論だ。キミの進路選択は間違っていなかったと思うよ』
*
《天に誓って言うが、ぼくはあらゆる手段でこの挑発を避けようとしたけれど、いかんともしがたくこれに屈したのだ》
ジュライの思惑は察していた。勿論出来ることなら、ずっとこの日々を過ごしたかったけれど。それも難しいなら、せめて家族だけは守りたかった。
二人は、僕によって此処にいるのだから。
《このときガロアが書いたことの大半は、すでにコーシーとフーリエに提出したアイディアの書き換えにすぎなかったが、複雑な数式に隠れるように"Stéphanie"や"Une femme"や絶望の嘆き──「時間がない!」──などの走り書きが見える。》
時間は限られている。
リミットは決まっている。
甘い時間に終わりがあるなら、それがいつしか後悔となると言うのなら。
そうならないために動くだけだ。
終わりを回避するのではなく、終わりに悔いがないようにと。
嗚呼、でも。
エイプリル。
ディセンバー。
何よりも大切な家族。
受け入れたわけではない。
手放したわけではない。
この矛盾と迷いは、きっと────。
《銃口が上がり、火を噴いた。デルバンヴィルは動かない。ガロアは腹部を撃たれて地面に崩れ落ちた。》
逃げる途中に、銃弾を受けた。
落ちていく生を理解する。
落ち着いた思考で、彼のその様子に笑みを浮かべて。
落ちていくディセンバーを見届ける。
月明かりが穏やかだけど眩しくて、瞼の裏、暗転した筈の世界を、白く染め上げていった。
《そこで友人たちは、この恋愛沙汰もまた政治的な陰謀で、ガロアはまんまと罠にはめられたにちがいないと考えたのだった。》
⇆
「復讐のためじゃなくて、今の家族が待つ家に二人で帰るために、ここに来た」
「──。じゃあオーガストはもう、戻る気はなかったってこと……?」
「……でも、電気は通ったままだった。矛盾してるだろ? だが、アイツはそういう奴だ」
「……うん」
*
『これはこれは、何かご依頼ですか』
『キミの招待を受けようと思ってね』
『部屋をお間違えでは』
『私もガロア理論を初めて知った時は興味をひかれたものだよ。ジェームズ君。エヴァリスト・ガロアの数奇な運命にもね』
月下でムーンシャインノルマ達成するだけの話
「東、それ……」
「ああ、これ? 千景が出張のお土産にくれたんだ。日本でも手に入るけど少ないんだって」
「……そう」
東が手にしていたのは、ムーンシャインという蒸留酒。元々は密造酒を意味するスラングだが、それを由来として名前が付いているらしい。
「でも珍しいよね。千景が自分では飲まないと思うんだけど」
その通りだ。
多分、アイツは────。
*
「ウイスキー?」
「そう、もらったんだけどね。ついでに聞いた話の方が、僕には興味深くて」
そう言って、オーガストは同名の理論の話をし始めた。数学は専門じゃない筈なのに、それでも普通の人よりはずっと理解している、んだと思った。正直難しすぎて分からなかった。
覚えているのは、終わりだけ。
「全く違う形で決められた二つの数が結びつく。何だか、二人みたいだなって思ってさ」
その言葉に、エイプリルとお互いに、疑問と驚きの両方が混じった声を出した。だが、そのまま話をして、理論はともかく言葉については理解した。オレとエイプリルは、全然似ていない。
だとしたら。
j-不変量とモンスター群がオレたちなら、それを結ぶ理論自体はオーガストだ。
そんなことは、誰が言い出したのか。
月明かりを、グラスの中身が吸い込んで、輝いている。
