そのアイズを知らない【サンプル】

「ホワイトを殺した犯人を、見つけてほしいのじゃ」
 
 双子の屋敷の一室。
 ソファに腰掛けながらそう告げてくるスノウに、向かい合った位置で立つ弟子の二人は、すぐに反応出来なかった。
 唐突に呼び出されて、お願いと言う名の命令をされることは二人にとっては度々あることだった。だが、今回の内容は、とてもすぐには飲み込めなかった。
 告げられた言葉の意味も。
 それを口にする、目の前の師も。
 殺された? 
 だが、ホワイトは。
「……殺された?」
「そうじゃ。我の、最愛の片割れが」 
「……冗談を」
 笑みを作ろうとしていた筈が、歪んで。フィガロは自身が今、師へどういう表情を向けているのか分からなかった。
 言葉が上手く継げなくて、短い言葉ばかりを並べてしまう。
 弟子のことを見つめる二対の瞳は、それらの言葉を浴びても、揺らがない。そのような問い、勿論予測していたとでも言うように。
 ──否、それは表層だけか。
 弟子の知らない奥底で、僅かに揺らいでいることを、しかし弟子たちは知らない。
 それを悟らせずに、師は言葉を返す。
「冗談? これでもかのう?」
 そう言ってバラバラと、師は目の前のテーブルにあるものを積み上げる。
 キラキラと、様々な色を閉じ込め光るそれは、二人もよく知っている。
 ──マナ石だ。
 目の前の光景を、師の言っていることを、認識は出来るのに、理解しきれない。
 石の弾く光が、やけに刺さって、目に痛くて。否が応でも存在を強調してくる。
 それは、身近な者の石だからか。
 或いは──感じ取るものの歪さ故か。
「これは、本当にホワイトの石か」
 口にするかを悩んでいたフィガロに対して、オズは躊躇いもなくそれを言葉にした。
「……何故そのようなことを言う」
「違う魔力が混じっている」
 それは勿論、フィガロも認識していたことだった。
 確かに、ホワイトの魔力は感じる。
 だが、他の魔力も存在する。
 同じ時、同じ場所で石になった魔法使いか、魔法生物がいたのか、或いは、ホワイトを殺した相手のものなのか。
 殺した相手も一緒に石になっているのだとしたら、探す相手など存在しない。
 そもそもホワイトは本当に殺されたのか。事故ではないのか。
「おかしな事を言う」
 しかし、返された言葉には、いよいよ自身の耳を疑った。
「そのようなことなかろう。他の魔力など混じっておらぬ」
 何の淀みもなくそう口にする師が、ここまでくると、不気味に見えてならない。
 こちらの認識がおかしいのか、最愛の死を前に狂ったのか、或いは……。 
 おかしなことが、ありえないことが──そう思いたいことが、多すぎる。
 そのような中で、フィガロは瞬時に幾つもの思考を巡らせた。
 ホワイト様が死んだのだとして──フィガロはそのことを事実として認めたくないのだ──常に二人で一人である師匠らが、犯人を知らないなどど言うことがあるのだろうか。
 何も知らないのか。
 何も見ていないのか。
 いつのことか。
 何処でのことか。
 そういったことを問えば、それぞれに対して意味のあるような、ないような返答が返ってくる。
「……我はその時を見ておらんかった。ずっと吹雪が強くての。音も聞こえなかった」
「近くにいる筈の片割れのことすら、見えづらかった」
「今朝の事じゃ」
「氷の森でのことじゃ」
「二人で鉛を取りにいっておったのじゃが……気づいた時には、既に石になっておった」
 そう、自身の問いへ言葉を続けてくる師匠の姿を見ていても、言葉の内容を飲み込んでも、目の前の光景を見ても。弟子の二人は、理解が出来なかった。
 中身のない内容もだが、目の前の師匠のこともだ。
 そもそもスノウは正気なのだろうか。片割れの死を目の当たりにしたにしては、あまりにも落ち着いているように思えてならない。
「我らの頼みを聞いてくれるか」
 分からない。
 今広がるこの状況も、事件のことも、師のことも、死のことも。
 ──ただ、全てを飲み込んで、本当に言っている通りなのだとして。
 最愛をそのようにしたものに、自ら報復をする気すら起きないと言うのなら、それほどまでに、スノウの心は壊れてしまっているのか。
 分からない。
 弟子二人で視線を交わす。お互いに思っていることは同じようだが、目の前の状況に、空気を感じ取っているフィガロは勿論、オズもそんなフィガロを前にして、言葉を紡げない。
「……はい」
 そう言うのが、フィガロにとっての精一杯だった。
 このままここで話を聞いていては、これ以上言葉を零しては、きっと己すらも、正気を保てまい。
 オズもそんなフィガロのことを見て、自分のみが拒否の言葉を述べることはなかった。
 優しい、小さな笑みが、胸に酷く刺さっていた。